IDBダイアローグ
「コロンビアの政治情勢と武力闘争開催

 

 2003年3月7日、当事務所は、外務省のオピニオンリーダー招聘プログラムで来日したコロンビアの政治・安全問題の権威で大学教授、政府顧問またエル・ティエンポ紙コラムニストであるアルフレド・ランヘル・スアレス氏を招き「コロンビアの政治情勢と武力闘争」をテーマにセミナーを開催した。席上、まず上智大学外国語学部イスパニア語学科幡谷則子助教授によるコロンビアに関する概要説明があり、続いてランヘル氏による講演、また国際協力銀行 開発金融研究所 藤田安男主任研究員によるスリランカ情勢との比較説明があった。参加者は約120名。(協力:(財)海外投融資情報財団、(財)国際金融情報センター、(社)海外コンサルティング企業協会、(社)ラテン・アメリカ協会)

 各スピーカーによる講演概要は次の通り。

上智大学 幡谷則子氏

コロンビアの現状 (幡谷氏)

・ 国土は日本の4倍、人口は1/3。
・ 2002年のGDP成長率は1.9%、99年はマイナス4.3%。
・ 2002年の一人当たりの名目GDPは1,770ドル。
・ 経済は農牧業中心だが、政府は多様化、輸出振興を産業政策としている。
・ 治安、武力・政治的暴力、麻薬、汚職等社会・政治的問題を抱えている。
・ 国内難民(推定200万人)が大きな社会問題として最近浮上したが、政府の対応は遅れている。
60年以降一部のエリートによる二大政党(自由党・保守党)が一部の階層に制限されたものではあったが、長い民主的な伝統を維持してきた。しかし、FARC、FLNといった反体制派が台頭し、民主主義国家でありながら紛争を抱えた国家を形成している。

 

コロンビアの政治情勢と武力闘争  (ランヘル氏)

 コロンビアは暴力、麻薬といった問題は抱えているが、経済運営は伝統的に慎重で政治・経済的にはラ米で一番安定しており、他のラ米諸国に見られるハイパーインフレといった幾多の大きな危機を逃れている。国民の25〜30%は貧困層に属しているものの、国連によると識字率、死亡率、公共基本サービスへのアクセス、栄養状態などの指標は過去30年間コンスタントに改善が見られ、国民所得も安定している。

 しかし二大政党による長期支配により様々な問題が発生している。中間層の拡大や教育レベルの向上により2大政党以外の独立派への支持も増加している。また1991年に改正された憲法により政治的なオプションが広がり現在63政党が登録されており、少数派や先住民の参画が認められ独立系政党の議席も増えてきている。

 一方、コロンビアはグアテマラ、ウガンダ、フィリピン、スリランカと並び国内で長い紛争を抱える国のひとつとなっている。この様な武力闘争は60年代・70年代のゲリラによるものに端を発しているが、当時はジャングルでの活動が中心で国民の生活に深刻な問題を及ぼすものではなかった。しかし、これらのゲリラの動きは80年代初めに変化を見せはじめ、麻薬の密売、特にコカインの取引が大きな問題となっている。アメリカ、旧ソ連への密輸を通して得た利益はコロンビアのGDPの2〜3%を占めるに過ぎないが、治安、汚職等の温床となり、これによりゲリラは勢力を伸ばしコロンビアに大きな影を落としている。

 ゲリラグループは、60年代から70年代にかけては前線に立つ兵力の数は、ほぼ変わらなかったが、80年代に入り合法的・非合法的に経済活動に進出するとともに勢力を伸ばしてきた。例えば80年代初めにアラウカというベネズエラに接している地域の石油開発にコロンビア第二のゲリラ組織であるELNが進出してきた。当時ELNは勢力が弱体化していたが、この石油開発で活力を取り戻し、また麻薬密売を通じてこの20年間持続的な成長を遂げることができた。石油開発以前は73人のゲリラ、3戦線組織しかなかったが、今では4,500人のゲリラ、35戦線組織をいくつかの地域に持つ大きな勢力となっている。

 FARCは80年代初めに80人ぐらいの兵士を持つ組織であったが、今では18,000人から20,000人の兵士、90ほどの部隊が各地に広がる勢力を誇っている。特にFARCの成長はコロンビア全土における効率的なコカの栽培・加工により支えられたものであった。またELN同様、石油の利権によって大きな利益を得ており、これらによって組織、勢力を拡大してきたのである。

アルフレド・ランヘル・スアレス氏

 上記の通り、彼らの資金源は合法的・非合法的な経済活動によるものであった一方、もうひとつの大きな資金源は誘拐であった。コロンビアでは年間3,000件もの誘拐事件が起っており、このうち約5%が外国人を対象にしたものである。こうした活動を通じても資金が彼らの組織に流入して、ゲリラが組織を維持する仕組みを形成している。他国のゲリラ組織、例えば東南アジアの組織は海外の組織から活動資金の援助を得ているが、コロンビアの組織は自らの資金による自治・自立が貫かれている。

 80年代中ごろ、ペタンクール政権時に和平会談が開始され、この後4年ごとに政権が変わっても引き継がれ、ガリビア大統領により80年代後半から90年代初めにかけて5回の成功を収めた和平プロセスがあり、これにより、5つの小さなゲリラ組織が非武装化され市民社会に復帰し、また政党を結成し合法的な政治への参加を果たした。

 しかしELN、FARCという二大ゲリラ組織は現在も相変わらず勢力を保っている。これらのグループは前述の様な活動により規模を拡大してきたものだが、もともとは農村の反政府グループで、彼らは政府による農地改革に対し次第に武器を取り暴力によって自らの考えを主張する様になった。

 ELNは近年暴力による主張から政府との交渉にその戦略を移行させつつあり、勢力を弱めてきている。パストラナ大統領の時代にも和平交渉は続けられ、42,000平方キロメートル(スイスと同じ広さ)にも及ぶ地域での非武装化が進められたが、数年前に中断している。これは政府とFARCが経済、社会、政治制度、軍関連等8項目、更に42の細かいテーマに分かれた交渉のアジェンダが決められ交渉が進められたにも関わらず、FARCはこれに乗じて非武装地域を攻撃し、勢力を伸ばそうと試みたからである。

 一方国民世論は対話に応じないFARC、またゲリラ組織に対して強い態度を取れない政府への不信感を募らせていた。パストラナ政権が終わる直前に和平交渉プロセスは脆弱化し決裂、現在のウリベ政権が始まった。しかし、これを機にFARCの活動は更に過激化し、大統領就任時にもロケット弾を大統領府に打ち込み、更に橋梁、エネルギー施設、通信設備を破壊する等、国内各地でのテロ活動を行っている。現在、FARCと政府には大きな隔たりがあり、和平交渉を行うにあたって過去20年間、両者の距離がこれ程まで大きく開いてしまったことはなく、短期、中期的に対話を再開することは難しいように思われる。ウリベ政権は、国民世論を考慮し、新しい解放区を作ることを拒否した。一方、FARCは新しい解放区を現状の3〜4倍とするよう主張している。また、政府は和平対話再開の条件としてFARCの武装解除を要求したが、FARCはこれを拒否、政府による国連機関の仲介案も拒否している。このような状況に鑑みるとここ数年で両者が和平に向けて歩み寄ることは難しいと考えられる。

 政府はFARCに対し、国民の保護、治安の回復を行う体制を強化している。ウリベ大統領は大統領選挙中の公約として軍事費の増強を掲げ、史上最高の得票で当選したが、就任後の政策は下記の通り。

@ 軍事費増強:
これまでコロンビアは他のラ米諸国によりも少なかったが、治安維持に向けて増強する。
A 軍、警察の規模拡大:
スペインはコロンビアと同数の兵士を抱えているが、国土は1/2しかない。すなわち単位面積当たりの兵士数がコロンビアはスペインの半分しかなく補強が必要。
B 市民参加の促進:
民兵組織の助長等、良くないという議論はあったが、市民参加により協力して治安を維持するという犯罪防止メカニズム、市民ネットワーク作りは良い結果を生んでいる。
C テロに対する法律整備:
テロ活動に対する厳しい法律の作成。 この目的は、国家が主権を取り戻し、すべての国民に自由と権利を与えるということにある。財政上は他の省庁のスリム化、税収の増加を図ることによりテロ対策を支援。またコロンビア政府はアメリカ政府からの支援を受けており、今後もテロ撲滅、経済発展を続けていくには持続的な協力は欠くことができない。また、隣国及び国際社会も支援を表明している。残念ながらベネズエラ、エクアドルもしばしばテロ攻撃を受けており、またFARCの軍事物資の80%はエクアドルから入ってきている。こうした隣国との協調も事態収拾には必要となる。

スリランカ情勢との比較 (藤田氏)
 JBICは日本政府の海外での紛争復興支援にODAを活用したいという方針に基づき、国際平和に関する研究を行っている。ここではコロンビアとスリランカの国内紛争を比較してみたい。両者を簡単に比較すると以下の通り。
国際協力銀行 藤田安男氏

 コロンビアの国内紛争

・ 政治的イデオロギー対立が構造的 要因
・ 前政権は国内情勢安定に取組んだが成功せず
・ 国際社会も3回の和平プロセス等を通じて支援
・ 日本も経済・社会開発、人道分野で支援
・ 02年2月のFARCのテロを契機に和平プロセスを中止

スリランカの国内紛争
・ 民族対立が構造的要因
・ 83年以降大規模な内戦(6万人超の死者、100万人超の難民、国内避難民)
・ 02年2月にスリランカ政府と「タミール・イーラム解放の虎(LTTE)」との間で無期限停戦合意が成立、現在和平交渉が進捗中

スリランカの和平プロセスが過去に比べて進捗している要因は以下の通り。

@ 01年9月の米国同時多発テロにより国際的な反テロの流れが起り、資金・武器供給が減少した

A ノルウェー政府の仲介

B 和平に対する国内世論の支持

C 交渉におけるステップバイステップアプローチの採用(交渉に優先順位をつけ、できることからやっていく)

D 当初は経済的、人道的問題に焦点を当てる

E スリランカ政府とLTTEに間で交渉におけるパートナーシップの形成

F 市民社会の強力な参加(コミュニティー、宗教家、ビジネス界、学生の南北交流等)

両国の紛争にはコロンビアは政治的対立、スリランカは民族対立という大きな違いがある一方、世論、国際社会の支持、国際的な反テロの流れ等、いくつかの共通点がある。にもかかわらずコロンビアでは和平交渉がうまくいっていないのは、ゲリラが国内での合法的・非合法的な経済活動による資金を活動源としており、経済的に自立していることが大きな要因と思われる。よって麻薬取引を根絶すること、例えば農民による麻薬生産を防止、代替作物の奨励、農村の貧困対策が必要で、この分野で開発援助が一定の役割を果たす可能性がある。

   

 


 


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