融資以上のもの
メキシコでもっとも貧しい州の地域社会団体が融資と技術アドバイスが与えられれば繁栄も可能であることを実証

 
地元の小規模金融機関から融資を受けているチアパス州シナカンタンの織工

ピーター・ベイト

 「IDBが私たちの支援を始める前、物入れ棚はあったけれど、他にはほとんどなにもなかった。」このように語るのは、メキシコで最も貧しい州であるチアパスにある235軒の地元養蜂家が加入する協同組合のマネジャー、エンリケ・ベラスケスである。

 ベラスケスは、チアパス州の高地にある小さな町オコシンゴにある協同組合の本部で、組合員と来訪者を前に、「設備もトラックも、経理といったものも、技術援助もなく、巣箱はあまりに少なく、産出高も本当に低かった。仲買人に蜂蜜を最低価格で売っていた。」と、かつての状況を説明した。

 協同組合は、今では、コーポレート・カラーである黄色と緑に塗られた近代的な蜂蜜と、コーヒーの加工・貯蔵工場を所有している。小規模であるが瓶詰めのラインが染み一つない清潔な白いタイルの部屋の中で輝いている。隣の部屋では、大きなドラムに詰め込まれた蜂蜜が、ヨーロッパや北米の顧客への出荷を待っている。すぐそばには、蜂蜜、そして蜂蜜の副産物で製造されたトローチ、香粉、せき止めシロップ、トニックなどのポットがつまったケースが積まれており、どのポットにも協同組合の商標である「ラ・カニャ−ダ」のラベルが貼られている。そして廊下の一つには、協同組合が社会的企業に与えられるメキシコ国内の賞を受賞したことを証明する色鮮やかな陶器製の盾が飾られている。

 ありとあらゆる種類の社会、経済、政治問題を抱えた地域にあって、このような変革はどのようにしてなされたのだろうか。大方は懸命な努力と健全な組織を通じてであるが、それに加えて、融資、無償供与、強力な技術援助と指導とを組み合わせた、IDB独自のプログラムであり、メキシコ南西部における生産的な小規模プロジェクトに対する融資制度からの支援が一役買っている。

困難な領域

 IDBのメキシコ事務所が運営しているこのプログラムは、貧困水準が最も高く、先住民が多く住み、根深い社会・政治的緊張を抱えるメキシコ国内のチアパス、オアハカ、ゲレロ各州の団体を対象としている。この地域には、ゲリラを自称する二つのグループがあり、土地や水を巡ってしばしば紛争が勃発する。辺境にある自給農民の地域社会に暮らす若者には、経済的機会など無きに等しい。麻薬取引の大きな魅力に誘惑される者もいるだろう。その他多くの者は、結局、メキシコ国内の大半の都市を取り囲むスラム街に移り住み、あるいは、さらに北へと移住する。

 この状況は、地理的意味合い以上に、困難な領域である。IDBのプログラムが対象としている地域社会は、通常、最も近い都市からでも何時間もかかる辺境にある。住民の大半は様々な先住民グループの出身で、異なる言語、方言を話す。文化的特徴も村によって異なる。外部の人間は、そこでは、大体、疑いの目をもって見られる。

 多くの場合、プログラムは、正規の融資を受けた経験が全くない先住民の農民や職人グループと協力している。IDBの大半の業務では、通常、当初の融資とプロジェクトの最終的受益者の間にいくつかの段階を踏んでいるが、この場合はIDBの職員がプログラムが援助対象としている人たちと一緒に直接働いている。

 1997年にプログラムが開始されて以来、IDBのソフトローン窓口である特別事業基金から資金を得て、プログラムの運営に当たっているメキシコのエコノミスト、ハビエル・ローウェが説明するように、この南東部にある3州の最貧困地域や辺境地域にある地域社会団体に融資の申請が認められている。資金供与を受ける資格としては、その団体が少なくとも発足から3年以上経過していること、会員数が100人以上であること、持続可能な生産的プロジェクトを有していることが定められている。

 IDBのプロジェクトへの呼びかけに応えるグループは、申請書に詳しく記入して提出しなければならない。ローウェは、「これによって、通常、真剣な団体とそうではない団体とが振り分けられる。」と説明する。次に、プログラムの担当官とコンサルタントが提案を分析し、融資委員会に勧告を行う。次いで、ローウェと彼のチームが最も成功の可能性が高いとみなされる団体と共同作業を開始する。プロジェクトの提案は、計画・分析・協議のすべての段階を踏んだ後、メキシコの市民社会のリーダーを含む外部専門家のパネルによる最終投票に付される。

資金とアドバイス

 承認されたプロジェクトには、最高額50万ドル相当の融資がメキシコ・ペソで供与される。利率は、年1%ときわめて低く、インフレや通貨価値の下落に対する調整は行われない。IDBの大半の融資には、資金が支払われている限り継続する元本返済に対する猶予期間が設けられているが、この融資制度の場合、参加団体には事業強化できる以上の時間が与えられる。だが、ローウェがたびたび強調するように、これらの融資は返済されなければならない。ローウェは、「施しではない。ご承知のように、今日助成金が手元にあっても、明日にはなくなる。持続可能なビジネスの確立を目指すべきだ。」とプログラムの参加メンバーに語った。IDBは、最終的な希望として、参加団体が、優秀な返済記録を残すことによって、信用の実績を打ち立て、いずれは商業金融機関を利用できる道が開かれることを願っている。

 プログラムのもう一つの大きな特徴は、借り手に運転資金を供与して、これにより、組合員に前受金を支払えるようにするという点である。ローウェが説明するように、コーヒー栽培業者の協同組合が豆を貯蔵庫に出荷する際に組合員に支払いを行えないとしたら、農民は多くの場合コヨーテとして知られる仲買人に売らざるを得なくなるだろう。

 プログラムは、融資とともに、借り手である団体の強化のために無償供与も行っている。たとえば、協同組合は、コンサルタントを雇って、有機農業やマーケティングなどについて組合員研修を行ったり、組合員は生産の多角化の方法についてアドバイスを受けたりすることができる。あるいは、少額貸付プログラムの管理を行うためのソフトウェアや、本部に備えるための事務用什器やコンピュータを購入することができるだろう。

 とはいえ、プログラムは資金面だけのものではない。これらのプログラムに従事しているIDBの専門家とメキシコのコンサルタントは、知識、経験、アドバイスなど、他の面でも貢献している。

 借り手が働いている地元のコミュニティというものは、一番近いアスファルトの舗装道路でさえ遠く離れているが、彼らはそのような場所で借り手とともに多大な時間を過ごしている。

 IDBのメキシコ代表のディヴィッド・アトキンソンは「融資は当然重要な要素であるが、プログラムの計り知れないほど貴重な貢献は、プロジェクト・チームによる付加価値であると思う。」と語っている。

 わずか数年の間に得られた結果は、実に見事なものである。生産物と計画以外はほとんどなにもなかったグループが、今や多角化、品質管理、あるいは儲かる競争市場への参入などに関心を持っている。かつてはその日暮らしであった人々も、今では努力して収益を増やし、生活水準を向上させている。仕事場に来訪者を迎えれば、パワーポイントを使って説明をするまでになっている。プレゼンテーションをし、あるいはコンピュータを操作する若者が、共同組合員の子どもである例も数多い。

 次の記事(from coffee to honey: http://www.idbamerica/index.cfm?thisid=1941)では、自らの、そしてメンバーや地域社会のよりよい将来を築くために努力するメキシコ南東部の最貧困地域の団体を支援するIDBの活動について、いくつかある事例のうちの一つを紹介する。

 (原文をご覧になりたい方はhttp://www.iadb.org/idbamerica/index.cfm?thisid=1589をご参照ください。)

 


 


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