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IDBダイアローグ 「2002年中南米経済社会発展年次報告」開催
中南米経済社会発展年次報告書2002年版「ラ米の新地域主義」 |
2003年1月28日、当事務所は2002年中南米経済社会発展年次報告をテーマにセミナーを開催した。席上、前半セッションとして米州開発銀行調査局プリンシパル・エコノミストのエルネスト・スタインが「ラ米経済の2002年の実績と2003年の展望」につき講演し、後半セッションでは同氏及び米州開発銀行地域統合計画局プリンシパル・トレード・エコノミストのアントニ・エステバデオルダルが「中南米経済社会発展年次報告書2002年度版報告」について講演を行った。同年次報告書は毎年IDBがテーマを決めて作成しているもので、2002年度版は「ラ米の新地域主義」と名づけられており、従来までは調査局単独で作成していたものだが、初めて地域統合計画局との共同で作成されている。参加者は約160名。(協力:(財)海外投融資情報財団、(財)国際金融情報センター、(社)海外コンサルティング企業協会、(社)ラテン・アメリカ協会)
各スピーカーによる講演概略は次の通り。
I. 前半セッション:ラ米経済の2002年の実績と2003年の展望
(1) 資本の流入と経済実績
資本の流入と経済実績は非常に強く関係しあっており、97年のアジア危機、98年のロシア危機以来、ラ米諸国の成長実績には、はっきりしたサイクルが見られる。つまり、アジア危機の直後減速した経済はロシア危機の後、リセッションを経験し、その後99年後半から2000年前半にかけて回復し、再び停滞、リセッションというサイクルをとっている。この地域の経済はアメリカとの連動度が強く、ほとんどのラ米諸国で同じようなサイクルを示している。
この様に同じサイクルを示すのは背後に組織的な理由があると思われ、我々は資本の流入が重要な要素だと考える。
このようなパターンは危機的な状態にある国ばかりではなく、チリの様な相対的に健闘している国においても資本流入に急ブレーキがかかるという事態に陥っている。このような状態を理解するには投資家がリスク回避にまわっていることを理解する必要がある。途上国の社債とアメリカ財務証券の利ざやとの間には、強い相関関係があり、アメリカでの一連の企業会計における不祥事以後、上昇し続けており、投資家がリスク回避にまわり資本の流入が減ってしまい、01、02年の経済実績は芳しくなかった。特にウルグアイ、アルゼンチン、ベネズエラでマイナス成長となっている。
(2) 資本の流れが止まったことにどう対処したか?
資本の流れが止まると、各国は財政収支で調整しなければならない。国によっては外貨備蓄を取り崩すということを行うが、これも限界に達すると為替に圧力がかかり、自国通貨が弱くなることに目をつぶらざるを得なくなる。開放された経済では対処し安いが、閉ざされた国では輸入で調整せざるを得ず、アルゼンチンは大きな影響を受けた国のひとつとなっている。また、通貨の下落に関してはアルゼンチン、ブラジルが著しく、資本の流入が止まることに対する脆弱性を示している。その他の資本の流れが止まることに対する脆弱性を示す要因として、
・ 高い対外債務。
・ 民間部門を含む債務構成内容のミスマッチ(貿易が偏っている、ドル化経済等)
が挙げられる。
他方、チリにおいてはこのような特徴は見られず、資本の流入が止まったことに対し同様の対処をせざるを得なかったにもかかわらず、その他の経済状態は大きく違っている。
(3) 全体の経済実績
一方、総需要の構成を輸出、消費、投資に分けて見てみると、消費は経済サイクルに対し比較的安定しているのに対し、投資は98年から02年第二四半期にかけて20%減少している。輸出は同時期に20〜25%増加しているが、ここ1年間は伸びが止まっている。これは資本の流入が止まったことにより、資金調達が滞ったことによると考えられる。財政収支においても調整が行われており、大きな通貨下落があったアルゼンチン、ベネズエラ、ウルグアイでは高いインフレが発生している。以上を鑑みると、政策における懸念材料は以下の通り。
・資本の流入が止まることによる脆弱性。
・民間投資の崩壊。
・緩やかな輸出の伸び。
・高いインフレ。
・失業率、貧困の増加。
(4) 2003年の展望
ラ米諸国全体では2.2%程度の成長が見られる。アルゼンチン、ブラジル、ベネズエラの見通しを簡単に説明すると以下の通り。
アルゼンチン
・ 最近になって下記のような回復兆候あり。
− IMFとの合意
− 金融緩和にもかかわらずペソが強くなりつつある
− 預金者が銀行に戻りつつある
− インフレが予測した水準より低かった
− 財政収支がペソ安に助けられた
− 輸出/輸入が回復しつつある
− コンセンサスの予想では03年は2.8%、04年は4.6%成長
・ しかしながら、下記懸念材料あり。
− 失業率は引き続き約18%と非常に高い
− 銀行は民間部門への貸し出しを渋っている
− 公的債務の支払い
− 4月に選挙を控え政治的に不安定
ブラジル
・ GDP比で債務が大きい。
・ ルーラ政権の発足、閣僚の指名は財政規律、マクロ経済の維持に有効。
・ しかしながら、下記懸念材料あり。
− 与党が少数で他の政党との連立が必要
− レアル安によるインフレの再燃、金利高
− コンセンサス予測によると03年は1.8%、04年は2.4%の成長。この成長率で債務支払いをカバーできるか?
ベネズエラ
・ 高い社会不安。
・ 野党がストライキを支持している。
・ 大統領が国民投票を拒否。
・ 双方話し合いによる解決を試みたがこれまでのところ成功していない。
・ 上記が資本の流出、高い失業率(約17%)を招き、財政システムを悪化させている。
・ ストが終了しても原油の生産は03年後半まで回復しないと思われる。
・ コンセンサスの予測では03年は−1%の成長。(この1ヶ月で予測が2%下がっている)
上記3ヶ国以外では例えばメキシコ、チリ、中米諸国では良い状況が予測できる。
II. 後半セッション:中南米経済社会発展年次報告書2002年度版報告「ラ米の新地域主義」 地域統合について
地域統合協定の重要性はここ数年ますます高まってきている。WTO事務局による資料では明らかにFTA締結の報告は増えてきており、特にラ米では90年代に多く報告されていたが、このような傾向が再び高まっている。
なぜ再び地域統合が重要となっているか?
グローバルな経済への統合には地域協定は欠かせないものとなっている。具体的には、
・ 構造改革の重要な柱を構成する(貿易の自由化、地域レベルでの統合等)
・ 地域統合により域内でより安定した経済環境を作ることができる
・ FDI誘致に役立つ
・ 地勢学的な要素(域内メンバーになることのメリット)
・ インフラ整備等国を超えた協力体制
新しい地域主義の特色
以前と現在の地域主義の特色は以下の通り対比することができる。
以前の地域主義の特色
−国内市場を発展させ域内市場とする。
−域内での障壁は低くするが、域外に対しては高くしていた。
−限定された品目、セクターに関する協定。
−同地域同士の統合
−実行性の高い仕組みがなかった。
−地域協定による利益が少なかった。
現在の地域主義の特色
−民営化や自由化傾向を前提とした構造改革を担う。
−対外的にも開かれた地域主義。
−より複雑かつ包括的な協定。
−地域を越えた統合(ラ米とEU、日本等)
−紛争処理能力を持ち改善されたWTOの枠組みの下に交渉されている。
−インフラ整備、平和/民主主義維持等貿易分野を超えた協力体制。
しかしながら、以下のような問題点も残されている。
・ 自由化が進んでいない分野。
・ 非関税障壁。
・ 農産物における一部の高関税。
・ サービス分野における自由化。
・ 複雑に入り組んだ統合による貿易ルールの透明性の欠如(一律性がない)。
・ 脆弱な制度上の枠組み。
・ 地域統合に追いつかないインフラ整備。
・ 正式な地域レベルでの金融統合が進んでいない。
・ マクロ経済、為替の不安定。
域内での為替変動における問題点
・ メルコスールのように大きな変動がある場合は更なる統合の障害となる。
・ 域内での大きな為替変動はメンバー同士のストレスとなり、下記問題が発生する。
− 保護主義への回帰
− 競争力のない国の輸出減少(域内で売れなかったものを域外で売れない)
− 投資の他地域へのシフト
− ある国での為替変動が他のメンバー国に伝播する
上記問題を防ぐ選択肢としては下記が考えられる。
1. 何もしない:しかし為替変動が非常に大きいと地域統合が危うくなる。
2. 金融政策と為替を協調させる:しかし協調には大きなコストを伴う。
3. 通貨同盟
通貨同盟
主な地域統合協定は当初より通貨同盟を作るために設定されているわけではないが、域内各国で貿易が盛んに行われているのであればメリットは大きい。
また、景気サイクルが同期化している国同士であればお互いにメリットがありうまくいくケースがある。しかし、ラ米では域内での貿易はGDP対比であまり大きいとは言えず、
また国によっては閉鎖的でありEUのようには景気サイクルも同期化していないため、通貨同盟を組み易い状態にあるとは言えない。
ただ、通貨同盟を作ってしまえば結果として貿易が増加し、景気サイクルも同期化するだろうという考え方もある。しかし、この説がラ米に当てはまるかというとEUの場合はもともと域内の貿易が大きかった上に、
通貨同盟によって更に増加したが、貿易額がそれほどでもない途上国同士では当てはまらないかもしれない。途上国では貿易が増えるということは特化が増すということで、貿易のアウトプットが全体として増加するということにはならない面もある。よって、通貨同盟によって以前よりも相対的に少しは景気サイクルの同期化が増すが、大きな効果は期待できないかもしれない。他方、もし現在の地域統合を政治的に更に強くしようという意思が働くのであれば通貨同盟により近づくことも可能である。
地域統合による影響
地域統合による影響は以下の通り。
・ 局地的な貿易増加につながる。
・ FDI誘致につながる。しかしながらその効果にはいくつかの弊害が考えられる。例えば、
− FTAAによる希薄効果によりメキシコから投資がシフトされる
− 地域内の一箇所に生産が集中してしまう可能性がある
− より有利な条件を提示できる国がより多くのFDIを誘致する
ということが予想される。
・ 生産性増大につながる。(グローバル経済への統合度が高い産業、企業ほど、特に南北間協定では恩恵を受ける)
地域統合と不平等の問題
貿易・投資の自由化が進むと新しい技術の導入等により賃金の不平等が進んでしまうかも知れないが、経験学的にはまだ証明されていない。また、地域の不均衡が増してしまうという説がある。
メキシコの例を検証すると、統合による恩恵は地域によって偏っており、統合は地域格差も十分勘案した上で進める必要がある。
政策勧告
地域統合に対しラ米諸国は、ドーハでの開発勧告を達成するため2005年までの間にいくつかの戦略的な決定をしなければならない。この中で各国は局地的な交渉に期限を持って臨む必要があり、
また更に南北間の統合、例えば94年から始まっているFTAA等複雑な統合も抱えている。
・ 南北間統合
− 包括的かつバランスの取れたFTAAが重要
− 進行中の二国間協議、例えばEU-ラ米協議も重要(EUによるFTAAとは違った見方が期待できる)
− アジアへの拡がりも必要
・ 更なる局地統合の必要性。
以下の理由により必要と考える。
− 国々がひとつのブロックとして外部と交渉できる
− 経済領域がグローバル化することにより競争力が増す
− WTO等他の交渉でのヘッジメカニズムが働く
− 近隣諸国との問題解決に役立つ
− 政治的局面等難しい部分もあるが、全体として統合にかかるコストよりも利益の方が大きいと考えられる
・ どのようにして更に局地的統合を進めるか?
− 関税同盟を進める(例外の撤去、手続きの簡素化等)
− 金融を含むサービス分野への拡大
− 地域機関の整備
− 地域インフラの整備
− 域内マクロ政策の協調
・ ドーハ開発勧告の推進。
− マーケットアクセス(アンチダンピングの規律、農業の自由化)
− WTOルール実現のための技術支援
− より強化された地域ルール
・ 地域統合効果を高めるポイント。
− 政治的リーダーシップ
− 貿易の自由化を他の分野の自由化とともに進める
− 税の優遇等でFDIを最大限に呼び込む
− 競争力をつけるため国/地域レベルでの政策を適合させる
− 貿易に関する能力を構築する
− 統合効果を測定/判断するためのより的確なデータ/方法
− 市場規模の小さな国への配慮
− 域内での敗者を保護する配慮
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