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平和のための軍隊
スペインの元国防大臣が軍隊の民主化を訴える |
チャロ・ケサーダ
かつては政治介入と弾圧の同義語であったラ米の軍隊も、今ではニュースに登場することは滅多にない。ラ米市民の心配も、クーデターより、職や健康あるいは子どもの教育の方が大きくなってきている。
しかし、世界の注目は他のことに転じたものの、ラ米においてはほぼすべての国が、細心の注意を要する軍と文民の力関係の再構築に取り組んでいる。
軍事改革を一般受けする問題ととらえている政治家はほとんどいない。政治家は、軍事改革が票に結びつかないことを充分承知している。軍部自体も、当然のことながら、その特権と権限を減ずるような介入には抵抗がある。とは言え、ラ米およびカリブ海諸国においては、この20年間に、軍事改革はゆっくりとしたペースながらもかなりの進展を遂げた。
この進展を示すおそらく最も重要なひとつの指標は、事実上域内すべての国で国防省が文民によって運営されているという事実である。従来その地位は、上級軍人の指定席であった。これは、国軍の政府からの自立を強調する事実であった。かつては国軍の影響力で知られた国であるチリを見れば、いかに著しい変化が生じたかが明白に理解できる。チリの現国防大臣は、女性民間人のミッシェル・バシェレであり、彼女は、ピノチェト独裁政権下において投獄され、拷問にかけられて命を奪われたチリの将軍の娘であり、社会主義者である。(P.14 「チリでラ米初の女性国防相が任命される」を参照のこと)
ラ米諸国は、また、それほど遠くない過去において同様の変革を迫られた、ラ米よりも歴史の長い、より確立された民主主義国から見識を得た。明らかな歴史的理由から、スペインの事例がとりわけ関連性がある。ナルシス・セラ・イ・セラは、スペイン内戦後フランコ総統による長年にわたる軍事独裁政権から抜け出したばかりのスペインにおいて、文民として初めて国防大臣を務めたひとりである。9年間にわたり、セラ氏は、現代の民主体制にとって容認されうる限界をはるかに超えた権限を有する軍事体制の民主化、近代化、職業化に努めた。このプロセスは、現代の政治家が「虎の爪の手入れをする」のと比べるほど、危険なものと考えられた。
しかしながら、獣は予期したよりもどう猛ではなかった。ECやNATOとの協定の締結には、数多くの変革が必要とされ、セラ氏はその実施を任せられた。例えば、国連やNATOを支援する平和維持活動や人道活動へのスペイン軍の参加は、軍隊に新たな役割と正当性を与えるのに役立った。
セラ氏は現在、域内の国家近代化推進に向け、IDBのイニシアティブによる軍事改革に関してIDBに助言を行っている。最近IDBを訪れたセラ氏に、ラ米における軍事改革の状況について語ってもらった。
IDBAmerica: ラ米諸国は、多くの国内制度の民主化を進めていますが、軍隊の改革はこのプロセスの一環でしょうか、あるいは別個のものでしょうか。
セラ: 軍隊の民主化は、移行段階から始まる多角的プロセスです。ラ米の事実上すべての国が軍事独裁政権下にあり、一部の国はごく最近までそうでした。 多くの国が、現在、軍隊がもはや政治には関与しないという、この第一段階にあります。さまざまな変化が見られますが、その中でもとりわけ注目されることは、紛争が減り、国防に関する法律が可決されて、文民の国防大臣の権限が新たに定められ、国家情報部が設置されて、軍の情報部に対し文民の監視が及ぶようになったことです。政策立案や安全保障など性質上は文民である政府部門において、また、それよりは重要性が低い航空および海上輸送などの分野において、軍のプレゼンスが少なくなったことはきわめて重要なことです。
一部の国は、第二段階にまで進んでいます。すなわち、政府が軍事政策を策定し、軍事特権が排除され、職業軍人のコンセプトが導入されています。しかし民間人が国防大臣に就任したとは言え、軍事政策を指示する行政手段に欠けていることがきわめて多いようです。
軍事裁判の改革については、ラ米諸国の大半がまだ必要な条件を出していません。独裁政権下や武力紛争中になされた犯罪に対する説明責任という重大な問題でつまずきがちです。
IDBAmerica: これらの改革を成功させるためには、まずどのような障害を克服する必要があるのでしょうか。
セラ: 経験から言えば、社会全体と軍に、それぞれひとつずつ問題があると思います。社会全体の問題は、民主制がしっかりと確立されるまでは、すべてのことが民主的なプロセスに則って組織されなければならないということを人々はなかなか納得できない、という問題です。多くの国において、国家が、例えば教育や保健に関してその義務を遂行しないで、どうして一般市民が軍部も民主的なプロセスに従わなければならないと考えるでしょうか。問題は一般に軍部だけのものではありません。無力な政府機関、指導者や政治エリートの姿勢も原因となっています。哲学者のハイメ・バルメスが19世紀のスペインについて語ったように、「軍部が強いから政府が弱いのではなく、政府が弱いから軍部が強いのだ」ということです。
軍は、より職業的な軍隊へのアプローチにシフトしつつありますが、しかしすべての国でそのようになっているわけでもなく、また、きわめて漸進的なものです。軍は、政府機構の中にあって独自の関心と果たすべき役割を有する独立した機関と自らを考える傾向にあります。しかしながら、西欧などの安定した民主主義国家においては、軍隊は、教師や医師がそうであるように、国家機構の一部です。このような地位を達成するためには、時間と共に、軍隊は安全保障と国家による武力行使を専門とする政府機構のひとつとして有用なものであるという事実を受け入れるよう、軍部のメンタリティを変革する段階的実施プログラムが必要です。
IDBAmerica: 域内の国の多くは、元ゲリラ戦士や準軍事的組織のメンバー、あるいは問題のある未解決の人権犯罪歴を有する軍隊と、今なお関わりを持っています。これらの問題は民主化を妨げるでしょうか、あるいは別個の問題でしょうか。
セラ: 内戦が終結したからといって、これらの問題も終わったというわけではありません。エルサルバドルの場合を考えてみてください。以前に比べ現状ははるかに改善されていますが、問題は解決されていません。ゲリラ戦士であった人々には職はなく、経済危機が発生し、生活水準は低化しました。これらの要因から、治安が悪化し、犯罪も増大しています。
軍隊を民主体制に適合させるという問題は、軍隊が内戦など国内紛争に関与していた場合、複雑です。ラ米ではこのような事態が頻繁に発生しています。スペインでは、軍事政権から民主政権への移行は、内戦が終結して何年も経って、傷がすでに癒えてから、行われました。ラ米の多くの国とはこの点が異なります。
IDBAmerica: 平均的市民はどのようにして軍部の民主化に気付くようになるのでしょうか。あるいは気付いているのでしょうか。
セラ: 軍部のイメージを改善するもっとも良い方法のひとつは、世界において民主主義と統治能力を推進する賢明な任務を求めることです。欧州、とりわけスペインでは、軍隊を正当化した任務は、例えば、ナミビアの独立の国民投票、ユーゴスラビア危機、あるいはニカラグアの反政府武装勢力(コントラ)の武装解除など、国連支援でした。海外で役立つということは、軍隊にとってきわめて建設的な要因です。私はスペイン軍の国連での活動の推進を強く提言しました。例えば自然災害が発生したときなど、多くの国で軍隊の人道的活動を眼にすることができます。ラ米でも、社会に多大なる貢献を果たしています。その活動は、世界中での平和維持活動の支援に留まらず、諸外国の軍隊と接触を持って、戦争するのではなく、平和のために闘うことを習慣づけています。
軍隊が積極的な役割を果たすもうひとつの方法は、地域協力を通じて隣国間の信頼を醸成し、軍隊の活動の協調を図ることです。南半球においては、アルゼンチンとチリが良例でしょう。両国は国境問題をめぐり今にも武力衝突が発生するばかりでしたが、今では緊密に協力しています。例えばアルゼンチン最大の軍艦は、チリで近代化されました。
IDBAmerica: 予算についてお聞きしたいのですが。コスタリカのカルロス・アリアス元大統領は、最近IDBで行ったスピーチで、軍事費の問題を論じ、軍事予算を秘密にしておくことは「一種の腐敗」だと発言しました。これについてどのようにお考えになりますか。
セラ: 透明性はきわめて重要です。軍事的安全保障は、疑わしい取引や透明性の欠如などと関連があってはならないものです。軍事費についてすべて明白にする必要はない理由など、どの国についてもありません。政府は、軍事費を監督し、意思決定の権限を持つ必要があります。さらに、政府と議会は、防衛問題について協力すべきです。軍部と秘密の関連は、安全保障と透明性の関連に取って代わられるべきです。
軍事費を各国の対GDP比で測定した場合、ラ米はそれほどの額を軍事費に投じてはいません。従って支出水準は重要な問題ではないと思います。また、いつの日かラ米から軍隊がなくなるなどと考えるのは、非実際的です。というのは、問題は、国家主権の思想ときわめて緊密に関係しているからです。
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