| |
|
米州開発銀行カルボ・チーフ・エコノミスト
兼調査局長によるセミナー開催 |
2001年12月2〜7日の日程で、米州開発銀行チーフ・エコノミスト兼調査局長ギジェルモ・カルボが来日した。国際協力銀行(JBIC)、JICAとの年次協議ミッション(地域業務第二局長ミゲル・マルティネスをリーダーに米州開発銀行ワシントン本部から11名が参加)の一員としての来日であったが、滞在中に、多くのセミナーやワークショップ等にも出席した。東京(12月5日)と大阪(12月6日)で開催したIDBセミナーにおけるカルボのスピーチ「ラ米地域のマクロ経済・社会の現状」の概要以下のとおり。
なお、12月5日、東京で開催したセミナーのタイトルは「中南米のマクロ経済・社会の現状」。(財)海外投融資情報財団(JOI)、(財)国際金融情報センター(JCIF)、(社)海外コンサルティング企業協会(ECFA)、(社)ラテン・アメリカ協会(LAS)の協力を得て開催。出席者約110名。カルボによるスピーチの他、統合・地域プログラム局統合・貿易・西半球業務課シニア・エコノミストのエニオ・ロドリゲスと地域業務第二局金融インフラ課長のマルセロ・アンティノリによる「ラ米における経済統合」、「プエブラ・パナマ計画(プラン・プエブラ・パナマ)」についての発表も合わせ行なわれた。
12月6日、大阪で開催したセミナーは、「中南米の経済環境と米州開発銀行関連ビジネス・チャンス」がテーマ。大阪商工会議所、(社)関西経済連合会、国際協力銀行大阪支店、日本貿易振興会大阪本部の共催を得て開催した。本セミナーは、当事務所が主催する一般公開セミナーとしては、事実上大阪地区で初めてのものであった。出席者約70名。東京におけるセミナー同様、エニオ・ロドリゲス、マルセロ・アンティノリによる「経済統合」、「プエブラ・パナマ計画」についての発表が合わせ行われたほか、大阪で初のセミナーということから、地域業務第二局長ミゲル・マルティネスによる「米州開発銀行の役割」の一般紹介も行なわれた。
日本滞在中にカルボが出席したその他のワークショップ等(クロ−ズド・ディスカッション)は、12月6日の大阪セミナー後に神戸大学経済経営研究所で開催された「ラテンアメリカ経済と為替システム」(出席者:神戸大学教授・大学院学生等)などであった。
ラ米の長期的概観
(1) 80年代は一人あたりGDPが減少を示すというラ米にとって最悪な時期であった。90年代に入ると、ラ米経済は急激な改善を見せたが、それでもアフリカ、中東を除けば他の地域の方が高い一人あたりGDPの伸びを示した。先進国との格差は縮小する代わりに拡大し、一日2ドル以下で生活する貧困者数もここ10年で減少していない。この地域の競争力国際的ランキングも一部の国をのぞくと高いとはいえない。競争力には改善の余地が大きい。
(2) しかしながら、ラ米では90年代に種々の構造改革が大胆に実行されたのも紛れのない事実である。現在のラ米が難しい局面を迎えていることは否定しない。しかしながら、今後、地域は有望な時期に入り、経済も向上すると考えられる。現在、ラ米は、新たな発展の10年の戸口にあると考える。ラ米に投資を考えるに際しては、過去の実績で将来の指標を判断しないようにお願いしたい。今後、これまでの、そして現在も継続中の種々な改革の成果が出てくると信じる。
(3) ところで、地域の発展、経済パフォーマンスの改善には、各国単位にとどまらず地域全般にわたる良好な政策が要求される。こうしたことから、米州開発銀行は地域統合の支援にも力を入れている。ラ米地域は、アジアと比べると大きく遅れをとってはいるが、その潜在力は大きいと考えている。
ラ米地域の短期的概観
(1) 99年後半から2000年第1四半期にかけて輸出主導による経済回復が見られたが、2000年第2四半期からラ米の経済減速が明らかとなった。ただ、これは世界的傾向であって、この地域特有のものではない。97〜2001年のラ米主要7ヵ国のビジネス・サイクルをふりかえってみよう。98年第2四半期までの減速期(Deceleration)に続いて、ロシア危機を経てマイナス成長が続くリセッション(Recession) に入った。その後99年第3四半期から短い回復期(Recovery)があったが、2000年第2四半期から失速(Stalling)している。同じくラ米主要7ヶ国の2001年及び2002年の平均成長率はIMF予測で、各々1.6%、3.5%、ラテン・フォーカス誌予測で各々1.1%、2.4%である。いずれも2002年には成長率が改善するとしているが、99年第3四半期から2000年第1四半期の回復期成長率には及ばない。
(2) 地域の金利スプレッドは97年第4四半期から350ベーシスポイント以上拡大した。資本コストはそれだけ上った。これもラ米に限らず、多くの新興市場地域で発生している。ただ、ここで、留意が必要なのは、新興市場に共通する国際資本市場の問題は、「突然国際信用が止まってしまう」ことである。こうしたことは、先進国経済には起こっておらず、新興市場に特異な問題である。
71年以降の新興市場に対する民間資本流入額を見ると急激に増減する時期があり安定していない。80年代の「失われたラ米の10年」には資本流入額が急減した。その後90年代に入って突然急増。そして、97年以降はまた急激に落ち込んでいる。
資本流入の「突然の停止」がなぜ新興市場にのみ生ずるのか。対照的に先進国市場は、なぜ国際資本市場へのアクセスを失うことがないのか。十分な理論的分析を深め、対応を考えておくことが不可欠である。私見では、資本流入の「突然の停止」は為替制度以前に取り組みが必要な喫緊の検討課題である。為替制度を問題解決の鍵とするのは先進国の経験に基づく考え方で、途上国の状況は異なるのではないか。
なお、新興市場向けのFDI(海外からの直接投資)は70年代から現在にいたるまでほぼ一貫して上昇傾向にある。ラ米についても同様で93年以降大きく伸びている。国により、また年によりある程度の変動はあるものの、ラ米の場合、FDIがその他資金流入落込みの緩衝となった面がある。
(3) ラ米地域の多くの国にとって、外的要因の重要性は継続している。
ラ米主要7ヵ国の経常収支を見ると、98年ロシア危機後赤字が大きく拡大した。その後赤字幅は縮小する傾向にあるが、一時はGDPの5%に達する赤字となった。また、ラ米が大きく影響を受けている外的要因に、一次産品国際価格の低下がある。ラ米各国経済にとって、消費と投資は必ずしも成長の原動力となっておらず、原動力は輸出であった。すでにふれたように99年後半から2000年初にかけての経済回復は輸出主導によるものであったことに留意。こうした現状は改善が必要である。世界的なリセッション下では、輸出依存は弱みとなり得るからである。
(4) 以上、総括すると、ラ米地域は海外からの資本流入に支えられている。現在、ラ米経済は調整局面にある。それに伴うリスクもあるが、この局面が終了すれば経済は正常に戻ることが期待される。したがって、ラ米にとって改革努力の継続は引き続き重要である。現在は困難な局面にあるが、ラ米地域の魅力が減少したわけではなく、むしろ、活用すべき有利な投資機会はふんだんに存在すると考えられる。
アルゼンチンの現状とブラジル
(1) アルゼンチン政府も資本市場への十分なアクセスが確保できないと自ら認めている。金利スプレッドは現在30%に達し、資金借入れコストは膨大となっている。デフレ状態から実質金利は一層高くなっている。この様な状況の下で成長を遂げることはほとんど不可能である。借金で首が回らなくなることも明らかである。アルゼンチンの現状は残念ながら維持可能ではないだろう。資本市場は、債務全額支払いに不安ありとみると、金利を上げる。しかしながら、金利上昇はますます支払能力を失わせ、悪循環に陥る。悪循環から脱け出すためには、残念ながら、債権者との支払能力に見合った金利引下げ交渉が不可避である。アルゼンチン政府は7%に金利を引下げることを債権者に要請した。エクアドルの先例に鑑みれば、債権者の3分の2が金利引下げ交渉に応じれば交渉は成立し当面の問題を切り抜けることができると考えられる。アルゼンチン政府は第一段階として国内債権者の同意を取り付け、第二段階として、国外債権者と交渉を行うとしている。現在、先行きの不透明から、銀行預金引出しが相次いでいる。これに対処するため銀行預金凍結(一時的支払停止)をおこなった上で、デビット・カード発行と同カードによる支払いが可能とされた。ちなみに、アルゼンチンでは小切手は一般的ではない。こうした措置が有効に機能することを期待したい。国外債権者を取り纏めることができれば、アルゼンチンも債務返済が可能となり正常な状態に復帰できると考えられる。
(2) ブラジルの状況は良好で、財政も持続可能なものとなっている。ブラジル経済が99年の危機を脱出できたのは、為替切り下げよりもむしろ財政節度回復が重要な要因であったと自分は考えている。直接投資落込みの可能性、アルゼンチン危機の波及は若干の脆弱要因である。しかしながら、ブラジルには、99年に、短期間でプライマリー財政収支をGDP比4%改善した実績がある。これは前例の無い大幅な財政収支改善であった。この経験で、ブラジル政府の調整能力は立証されている。電力危機の影響も比較的軽微ですんだ。個人的印象だが、ブラジルがアルゼンチン危機の伝播を受け、危機に直面した場合、IMFはすぐにも支援に乗り出すだろう。アルゼンチンからブラジルへの危機伝播はさほど心配しなくてもよいだろう。また、その他のラ米各国がアルゼンチン危機の影響を直接大きく受けるとも思わない。。
(3) 以上を総括すると、アルゼンチンに問題があることは事実だが、アルゼンチンの対応策は正しい方向に向かっている。問題を迅速に解決することは難しいかもしれないが、それでも波及がラ米域内の他国、アジア地域に及ぶとは予想しにくい。アルゼンチン危機は限定的なものになると予想している。テキーラショックやロシア危機とは多くの面で異なっている。
現状では、先進国経済が回復しなければ、残念ながらラ米地域の経済回復は緩やかなものにとどまるだろう。しかしながら、長期・継続的な失速は予想していない。ラ米の経済展望について、自分は、「慎重でありながら楽観的」である。
|