生産性の難問
IDBが最近行なった調査では、「ラ米の企業にとって他の地域の企業との競争がなぜそれほど難しいか」を検証している。

 

ピーター・ベイト

 1990年代初頭、ラ米・カリブ海諸国は、1980年代の「失われた10年」後の目覚しい経済回復に向けて準備万端のように見えた。諸国は市場の自由化や構造改革を進め、新しい技術が花開き、国際金利や民間資本の流れは新興市場に好意的であるなど、状況は全てこの地域に味方していた。

 それでも、この地域の実績は振るわなかった。IDB調査局も、「中南米経済・社会発展年次報告書2001年度版“ラテンアメリカの競争力”」の冒頭で、ラ米の経済成長について「期待はずれ」と言っている。1990年代、ラ米では、GDPが年率平均3.3%の伸びを示したのに対し、所得の伸びは先進工業国や東南アジアの一部諸国を下回る1.5%と低迷していた。報告書が指摘しているように、ラ米の所得の伸びはきわめて遅く、先進諸国の現在の所得レベルに達するには丸々1世紀かかる。

 IDB調査局の最近の報告書は、この無残な結果の原因として考えられることに注目している。ここ数年、IDBの報告書は、ラ米・カリブ海諸国の開発の妨げとなっている問題を扱ってきた。例えば、見過ごされがちな地理的要因や人口構成の要因の影響、弱体な公共機関、根強い経済的不平等、地域の好・不況の波で金融が不安定になって生じる大きな損害などである。

 この2001年度版中南米経済・社会発展年次報告書では、ラ米・カリブ海諸国がどのように生産要素(与信、労働力、インフラ、新しい技術)を利用しているかを分析し、深刻な欠陥と不可解なパラドクスを明らかにしている。例えば、この報告書では、「ラ米では、与信不足、そして、輸送、エネルギー、電気通信といった主要インフラに欠陥があるため、大手企業の規模が先進工業諸国や東南アジアの大手企業に比べて遥かに小さい」と指摘している。大手企業の成長が妨げられているために、創出される雇用の数も限られる。この影響は、大手企業よりも融資が受けにくく、効率の悪い港や当てにならない電力供給、反応の悪い電気通信システムに対処する大きな障害に直面している中小企業で増幅される。

 IDB調査局がこれまでに行なった主な分析と同様、この報告書でも、国際指標と地域の世論をもとに調査結果の一部を説明している。今年の世界経済フォーラムの「Global Competitiveness Report(世界の競争力に関する報告書)」はIDBからの要請を受けてラ米20カ国も対象として作成されたが、この報告書では、ラ米地域諸国の大半で技術力及びマクロ経済の環境や公共機関の質が劣悪であるという事実が引用されている。この調査から、ラ米諸国の半数の競争力指数が、所得レベルが保証するよりも低いことが判明した。つまり、将来成長する可能性が妨げられているということである。

 世界銀行とIDBが作成した「World Business Environment Survey(世界ビジネス環境調査)」からは、もう一つ気がかりな動きが伺える。この調査では、ラ米の起業家は、他の地域の起業家に比べて、与信の少なさ、複雑な規則や税制、不安定な経済政策、インフレや為替レート関連の不確実性、犯罪、汚職などの対応で直面している問題について痛烈に不満を訴えていた。こうした意見は多分に主観的だとは思うが、経済の主な担い手の中に、地域のビジネス環境に対する根強い不満があることを反映するものである。

 この中南米経済・社会発展年次報告書では、さまざまな章で、これらの欠点の多くを是正するために政府ができる数々の政策の選択肢について論じ、「各市場の生産性向上の主な要因が適正に機能する唯一の特効薬などない」と警告している。また、資本や技術力の不足は解決できないほどの難問ではなく、むしろ、各国の制度の枠組みを作っている法律や規則の方が手強いと指摘している。例えば、ラ米の民間与信供給量(GDP比率で計算すると、先進諸国の3分の1)は、不安定なマクロ経済だけでなく、適切な債権者保護の欠如、利息の法定上限、所定の部門や活動に対する政府指令による貸付、予断を許さない司法制度など、制度的な欠陥も足枷になっている。また、この報告書では、零細企業や個人の起業家が融資を受けやすくなるという点で成功しているマイクロクレジット(零細融資)で機能している他の制度の発展についても触れている。そうした成果を固めるには、規則や地域における金融システム監督の改善の他、それらに適用される法律の改正も必要であろう。

 今年度中南米経済・社会発展年次報告書を作成した研究チームをまとめるとともに、報告書の中心的な筆者の一人でもあるエドゥアルド・ロラの対談記事は次のページを参照。

研修、技術、資本などが生産性の決め手になる写真:ユリ・コルテス─IDB

 


 


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