| |
|
2001年11月12日、東京において、国際協力銀行(JBIC)、米州開発銀行(IDB)、アジア開発銀行(ADB)の三者共催によるセミナー「アジアとラ米の域内協力」が開催された。IDBからは、理事の上田善久氏、ラ米・カリブ諸国統合研究所長のフアン・ホセ・タコーネ、統合・地域プログラム局シニア・トレード・エコノミストのアントニ・エステヴァデオルダルがスピーカー、コメンテーターとして出席。このうち、アントニ・エステヴァデオルダルから、同セミナーの概要、提起された課題等について寄稿(英語)を得たので、以下邦訳を掲載させていただく(訳責米州開発銀行駐日事務所)。
米州開発銀行
シニア・トレード・エコノミスト
アントニ・エステヴァデオルダル
2001年11月
国際協力銀行(JBIC)、米州開発銀行(IDB)、アジア開発銀行(ADB)の三機関は、この度、初の三者共催会議として、アジアとラ米の地域統合と地域協力に関する重要な国際セミナーを開催した(東京、11月12日)(駐日事務所注)。各国は、グローバリゼーションによるさまざまな力の影響を受けると同時に、自国開発戦略に「グローバル」ルールをあてはめることに再検討をせまる国内圧力にさらされている。このような時期にあって、今回の会議の主題は、極めて時宜に適い、また、両地域が現時点で取り組むべき課題に妥当なものであった。このような新しい環境の中で、地域統合と地域協力は、政策協議と政策実施にとって極めて重要な第三線となっている。JBIC/IDB/ADB会議は、アジア、ラテンアメリカにおける地域レベルの統合と協力の機会、課題そして方式について議論するすばらしい場となった。本稿の目的は、この会議において提起された、いくつかの問題と提言を論ずることである。
(駐日事務所注)今回のセミナーは、IDBについては、1998年にIDB内にもうけられ、1999年に活動を開始したジャパンプログラムの一環として実施されている。ジャパンプログラムは、日本からの拠出金をもとに設立された基金であり、日本を含むアジアとラ米両地域相互間で、経済・社会開発のための戦略と政策の策定に関する専門的技術、知識、最良の慣行の移転を図ることを目指している。
会議の第一部では、「地域統合」の問題が取り上げられた。パネリスト達は、両地域における地域統合のさまざまな形態、将来の進展に関する展望を詳細に論じた。現在では、国の開発戦略を成功させる上で、世界経済に効果的に参加していくことが重要な要素であることが広く認められている。問題は、この戦略において地域統合が果たす役割とはなになのかである。一国の戦略は、はたして世界全体を一体のものとして焦点を当てていくべきなのだろうか、あるいは特定の域内パートナーとの協力と統合に集中していく余地があるのだろうか。グローバリゼーションに対する地域的アプローチは様々な形をとりうる。第一に、地域主義をしてグローバル戦略に取って代わらせるものがあるだろう。これは、1960年代から1970年代にかけてラテンアメリカが実施した地域統合モデルで、高関税の貿易障壁をもうけるものである。しかしながら、この方法は失敗と考えられ、すでに放棄されている。今では、この方法をまじめな選択肢と考える人はいないだろう。第二に、自由な対外貿易政策と並行して、地域主義を広範に指向することも可能である。定義上、地域主義とは、本来差別的なものであるが、世界との貿易関係全体を対象とする場合に比べ、より急速で、より深度ある統合達成をすすめることが可能となるかもしれない。最後に、地域主義は、グローバルな統合に向けた準備ととらえることもできる。パートナー国と経済・貿易関係を構築していくことは、グローバルな経済に完全に参加する足がかりとなるかもしれない。具体的モデルはアジアとラ米で大きく異なっているものの、パネリスト達は、両地域において、地域主義が開発戦略に極めて貴重な役割を担い得るとの結論に達した。ただ、その貢献は、具体的な協定の形態とパートナーの選択によって大きく異なってくる。南南統合によってもたらされる利益は慎ましやかなものである可能性が大きい。同時に、貿易転換効果を生み、その国の真の比較優位からかけ離れた生産構造にしてしまいやすい。これらマイナスの影響は、南北間のスキームや、域外への自由化を伴った、あるいは北側のパートナーの参加を得た南南協定の場合にはあまりなさそうである。
この点に関連して、ラ米の統合モデルは、アジアの、より「市場主導型」のモデルと対照的に「ルールに基づいた」システムと特徴づけることが可能であろう。しかしながら、アジア、ラ米の統合モデルは、いずれも、統合に対するいわゆる「新しい」地域主義アプローチに共通した特徴を持っている。アジアでは「アドホックな(特定の目的にしぼった)」準地域(サブリ−ジオナル)経済協定(すなわち成長のトライアングル)が、より一般的なのに対して、ラ米では、よりフォーマルな取り極めが標準的である。ただ、アジアの「アドホックな」準地域(サブリ−ジオナル)経済協定もフォーマルな協定(すなわちASEAN)の重要性を減じる物ではない。また、統合の深度ももうひとつの側面である。市場統合の利益は、参加各国が、単なる関税の撤廃に留まらず、各国市場の一層の統合化を図っていく意思をどれだけ持つかによって異なってくるからである(深度ある統合の好例としてはメルコスールをあげることができる。メルコスールは、マクロ経済協調など貿易自由化以外の目的も有している)。
世界経済の地域化は明らかに進んできた。各国輸入品の平均輸送距離をみると、アジアとラ米における輸入品輸送距離は着実に短くなっている。これは、主として、アジア、ラ米両地域における域内貿易の増加によるものである。また1980〜84年から1993〜97年の間に、世界貿易は、63%拡大したが、アジア、米州地域における域内貿易の伸びはそれをはるかに上回った。このような域内貿易の成長の背景にある最も重要な要因が、地域統合協定数の増加であった。1999年の時点で、GATT/WTOには194件の地域統合協定が通報されているが、このうち87件は1990年代に締結されたものである。日本は、地域貿易協定に加盟していない数少ない国のひとつであったが、最近になりその姿勢を変えている(すなわち、日本・シンガポール協定)。
ラ米とアジアの「新しい」地域主義には、重要な構造の相違はあるものの、共通点もある。第一に、1990年代の「新しい」地域主義は、1980年代半ばから進められてきた広範囲に及ぶ構造改革の一部であった。地域主義は、各国独自の改革と国際貿易体制(WTO)への全面参加にともなって進められた。第二に、そのプロセスが、市場主導のものであり、外国からの直接投資(FDI)をひきつけることを目的としたものである。かつてのFDI依存に対する懸念は、国際競争力の向上と輸出市場へのアクセスに対するFDIの貢献に対する高い評価へと様変わりしている。グローバリゼーションの時代にあって、直接投資の資金をめぐる国際競争は熾烈化している。第三に、地域市場の創出は、多くの生産部門でダイナミックな変革効果を生みだす貿易・投資活動を促進してきた。域内輸出の急増は、製品構成の多様化、差別化の進んだ知識集約型工業製品の市場参加増大、産業内貿易を通ずる特化と規模の経済の拡大を反映したものである。第四に、両地域各国の外向きの姿勢が、半球あるいは世界的な規模のフォーラムへのより積極的で戦略的な参加の必要性を増加させた。地域統合は、各国がより積極的に協力することを可能にし、一層効果的でグローバルなプレーヤーとなる事を可能とした(FTAA、APEC)。第五に、「新しい」地域主義が、制度の近代化と非伝統的な分野における地域協力の拡大にとって、重要な要因であった。
以上のような進展にもかかわらず、依然として、この新しい地域統合へのアプローチの持つダイナミックかつこれまでにない潜在的効果をすべて台無しにしてしまうかもしれないいくつかの「旧来の」特徴が残っている。両地域の一部の国では、いまだに、その地域協定上、著しい貿易不均衡に対処するに際し、「変則的」一方的措置に頼りすぎるきらいがある。「古い」地域主義は、その関税自由化プロセスにおける、大幅な選択性がその特徴であった。「新しい」地域主義は、この点、より包括的で自動的であるが、一部製品の段階的関税廃止や特恵項目にかなりの部門別選択性が見られ、また、相手国による優遇がある。選択性を生むもうひとつの源泉は、製品毎に異なる複雑な原産地規則の適用増加である。これまでの市場指向経済改革にもかかわらず、両地域の経済は、依然大きな不安定を抱えており、結果として地域統合に悪い影響を及ぼしている。
JBIC/IDB/ADB会議の第二部のパネルでは、両地域における地域協力というより広い主題を中心に議論が行われた。地域協力とは、そもそも定義上、ある種「混じりけのある」公共財、あるいは、いわゆる地域財である。地域財を作る事は本来難しい。各国にとって、その利益が、ほとんど排他的なものではなく、分割可能なものでもない一方で、協力や集団行動、情報の非対称性や約束の確実性を確保していく上で政治的・制度的限界があることに起因する関係者間の問題があるからである。
フォーマルな協力メカニズムは、政治的、経済的、あるいはその両方の性格を持ちうる。この点に関し、パネリスト達は、二つの地域の間にある重要な非対称性を指摘した。ラ米においては、一般に、地域貿易統合が、地域協力への良き出発点となっている。確かに、パートナー双方にとって利益のある商取引の相互依存関係増大は、より成熟した地域市場の利点を一層十分活かすことができる経済協力を拡大させる誘因になる。同時に、より緊密な経済関係がもたらす社会的影響から生じる経済以外の分野における協力の必要性や、さらには、政治的協力を必要と感じさせる誘因にもなる。実際、予め企図されたものであったか否かにかかわらず、パートナー間の貿易求心力は、より深度ある有効な支援となりうる。最近発表された、南米地域インフラ統合(IIRSA)構想やプエブラ・パナマ計画(PPP)は域内の重要な貿易統合の取り組み(メルコスール、FTAA、NAFTAなど)から生れたものである。
貿易を通じた相互依存関係の増大が、協定の一部参加者達の政治的アジェンダを、極めて深度ある統合と広範な協力のための協定に向けたものへと突き動かした現代のもうひとつの実例が、西ヨーロッパである。実際のところ、地域市場の開放は、協力分野の拡大に機能した。アジアの場合、道筋はいくぶん逆であった。広範な協力取り極めから本格的な貿易・統合協定が導かれている。とはいえ、強調すべきことは、統合と協力の二つが、相互に補完的なことである。例えば、輸出業者にとって統合市場で貿易、投資の機会を見つけることに役立つ相互協力プログラムは、貿易交渉に対する推進力となるだろうし、いったん協定が結ばれれば、貿易を活性化するだろう。もう一つの例として、教育や最良の慣行についての相互協力は、開発、貿易に役立つ。当面、たとえば、先進国からの協力プログラムにより、途上国に対して、協定交渉や実施に際しての技術支援を提供することが可能だろう。結果として、維持可能なさらなる約束とより効果的な参加を確保することができるであろう。同様に、インフラ開発を支援する協力は貿易と投資の促進を助けるだろう。
途上国・先進国間イニシアティブは、しばしば、協力アジェンダの推進をより優先してきた(すなわち、米州におけるFTAA、アジア太平洋地域におけるAPEC、ラ米におけるEUとの協定、あるいは、EUアジア・フォーラム)。一つには、途上国市場の総貿易に占める割合が相対的に小さく、貿易交渉は、一般に、国内に強力な政治的支持層を持つセンシティブな部門に影響を与えるからである。強力な政治的支持層は、自由化に、より一般的に言えば、グローバル化に抵抗している。これに対して、協力プログラムは、その国の外交政策、経済、援助アジェンダにおける、現行の、そして、政治的に確立された優先事項の推進に密接に結びついたものだからである。
とはいえ、上記優先事項の非対称性の問題はさておいても、地域統合と地域協力を同時に前進させることは、それが極めて望ましいことではあるものの、多くの場合難しいことを認識しておくことは重要である。ラ米では、FTAAプロセスは、米州マイアミ・サミットのアジェンダのもとで合意された他の諸イニシアティブとは別に独自の道をすぐ歩み始めた。アジア太平洋地域では、APECが一つの軌道の下に二つの目的を維持することに幾分重荷を感じている。成功のためには、一度に実施するプログラムの数を絞りそれらを優先すること、明確に定められた目的と事業計画、数値化可能な目標、それぞれのプログラム分野における政治的指導力、十分な能力のある国内担当機関を持つこと、そして、適切な技術、ロジスティックそして財政面の裏づけ含む支援構造をもつことが重要である。
JBIC/IDB/ADB会議は、更なる統合と協力のアジェンダには今なお広範な選択肢があることを明確にした。同時に、今回のセミナーで採用された、ラ米とアジアの経験を比較検討する手法は、地域間関係における機会と課題を理解するために不可欠なものであることが明らかとなった。この点に関連して特筆すべきことは、ラ米とアジア両地域間の協議を強化し、関係を促進するための足がかりとして、最近、IDBとADBの間で締結されたパートナーシップ協定(駐日事務所注)である。両地域の開発と繁栄という共通の目標に向けて共に努力して行くにあたり、JBIC、IDB、ADBの間で、そして、他の地域機関や国際機関と、一層の協力を図って行きたいと考えている。
(駐日事務所注)両地域開発銀行間で、種々の活動協力や情報交換を行い、地域を越えたさまざまな協力関係を強化していくことを目的に、IDBとADBは、2001年3月にパートナーシップ協定を結んでいる。
各セッションのモデレーター、スピーカー等は以下の方々であった。(駐日事務所)
開会: 田波耕治(国際協力銀行副総裁)、上田善久(IDB)、Dr. Jungsoo Lee (ADB)、宮入宣人(司会(国際協力銀行開発金融研究所副所長))
第一セッション:篠塚徹(モデレーター(拓殖大学国際開発学部教授))、細野昭雄(神戸大学経済経営研究所教授)、Dr.Sudipto Mundle(ADB)、 Dr. Antoni Estevadeordal(IDB)
上田善久(コメント(IDB))
第二セッション:浦田秀次郎(モデレーター(早稲田大学社会科学部教授))、Mr. Juan Jose Taccone (IDB)、Dr. Myo Thant (ADB)、藤本耕士(国際協力銀行開発金融研究所長)、後藤一美(コメント(法政大学法学部教授))
全体総括:浦田秀次郎(早稲田大学社会科学部教授)
閉会:神信一(国際協力銀行副総裁)
|