予告された干ばつの記録
中米に大被害を及ぼした干ばつの社会的・経済的コストは、適切な政策をもってすれば軽減できたであろう

 

チャロ・ケサダ

 中米が再び新聞紙面をにぎわした。今回も不幸なニュースであった。

 この数十年にわたり自然災害や武力紛争によって大きな打撃を受けてきたエルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグアおよびグアテマラは、近年最大と思われる干ばつに今耐えている。11月初旬にハリケーン・ミッチによる豪雨と洪水が襲来する前一夏続いた干ばつは、地域の零細農家に惨害をもたらし、各国の最貧困地域には飢餓と栄養不良が蔓延した。

 食糧不足は、ホンジュラス北部を最近襲った洪水によって何千という零細農家の農産物が全滅したことから、一層の深刻化が見込まれる。

 さらに事態を悪化させたものとして、コーヒーの世界的な供給過剰で中米のこの重要な商品の価格は下落を余儀なくされ、地方の状況は一層悲惨なものとなった。

 およそ140万の農民が、主食であるトウモロコシ、豆、モロコシの80%から100%を失った。とりわけ子どもや妊婦が厳しい状況におかれたこの危機に対処するには、現在利用可能な資源では不十分であるため、国連の世界食糧計画(WFP)は、各国政府ならびに国際機関に対して中米への食料援助を要請した。

 雨季が例年よりも遅く6〜7月にずれ込んだことから、8〜9月期の収穫物は壊滅状態となった。現在種まきの時期にある2回目の収穫も、全滅の危険が予測されており、危機の長期化が危惧される。域内では容赦のない現実が報告されている。グアテマラの先住民チョルティ族は、農産物の90%を失い、野草で何とか飢えをしのいでいる。ホンジュラスのグリフナ族は、飢え死にしないための最後の手段として家畜の飼料を食べることにした。多くの家族が食物を口にするのは1日おきだと言われている。保健所に運び込まれる子ども達は、栄養不良がかなり進行している。失業したコーヒー農園の労働者が何千人もデモ行進を行い、窮状を訴えている。

 大型ハリケーン、エルニーニョ現象、地震、火山、そして今回の干ばつの累積的被害を考えると、中米は単に制御し得ない自然の力の犠牲者であると結論を下しかねない。しかし、実際のところ、それは話の一端にすぎない。

人間の介入

 中米の悲惨な現実についての調査研究や予測から判断すると、この惨状には人間も相当の責任がある。ひとつには、我々人間が有害な形で景観を変えたために、自然現象が地域に甚大な被害を与えるに至ったのである。森林伐採は土壌の吸水力を奪い、家や耕作地を破壊する鉄砲水をもたらす。そのような危険は、家屋など決して建てるべきではない険しい斜面や河川流域での宅地開発など土地利用の慣行によって一層深刻化する。加えて、地域には、相変わらず世界経済から一般に疎外されている農業セクターにおけるその土地固有の問題に対処する政策が整備されていない。

 「干ばつに襲われたときに諸外国が行っているように、水資源の保護と効率的な分配、土壌保全、水文気象情報の管理、穀類や食料品の在庫管理と保存、凶作に対処するための災害対策金融措置などの十分な予防手段を備えていれば、この干ばつが住民に与えた社会的・経済的影響は大幅に軽減されたであろう」と語るのは、IDBの地域U環境・天然資源部のシニア・エコノミスト、リカルド・キロガである。「域内の土壌劣化と水資源の枯渇による砂漠化は進行しており、深刻である。これは、持続不能な生産慣行に主に起因するものである。IDBでは、持続可能な農村開発の文脈の中で土壌、水、森林の利用を改善するためのプログラム実施に取り組む域内各国政府を支援している」

災害の一般的な帰結

 現在の干ばつは、域内のもっとも不毛な貧窮した地域と重なる農業生態学的に脆弱な一帯に広がっており、灌漑設備にも貯水設備にも欠ける人々の自給作物を破壊している。干ばつは、地域の危機的状況にある基本的食糧事情をさらに悪化させ、域内では栄養不良が著しく深刻化している。

ホンジュラス

 危機以前、WFPの報告書は、ホンジュラスは極めて危機的状況にあると指摘していた。「食糧不足は構造的問題であり、住民に日々の食物を手に入れる資力もない農村地域では、とりわけ深刻である。」ハイチ、ニカラグア、ボリビアとならび、ホンジュラスの栄養不良率は極めて高いが、逆境に対処する能力はほとんどない。状況は、とりわけ母親と子供を中心に、中・長期的に危機的であり続けると予測される。精神運動の発達が一時的、また慢性的に遅れ、病気にかかりやすく、ひいては学業成績も下がり、成人してからの生産性も低くなることに加え、乳児死亡率も周産期死亡率も増大する可能性がある。

ニカラグア

 WFPによれば、極貧の状況にあるニカラグアの国民の80%が、洪水や干ばつなどの自然災害が繰り返し発生する農村地域に住んでいる。5歳以下の子どものうち32%に、ある程度の栄養不良が認められる。IDBの専門家は、食料の安定供給に関してニカラグアは極めて脆弱な状況にあると指摘している。

エルサルバドル

 WFPの分析によれば、エルサルバドルの状況も同様に芳しくない。人口過剰と不安定な食料供給に加え、1998年のハリケーン・ミッチがもたらした影響は破壊的である。ハリケーンは国の農業セクターに壊滅的打撃を与え、基本的主要産物の生産能力を奪った。1998年の栄養不良指数は地方で29.6%を記録し、全国の児童の慢性的栄養不良は30%を数えた。

グアテマラ

 WFPによれば、グアテマラも栄養不良の問題を抱えている。国民のおよそ65%がある程度の栄養不良の状態にあり、国内第3位の死因となっている。「明らかに、干ばつが原因で根本的問題である飢餓がますます深刻化している」とWFPのラ米・カリブ海地域担当ディレクター、フランシスコ・ロケ・カストロは指摘する。「基本的問題は極貧であり、未解決のままだ」と付言した。ラ米・カリブ経済委員会(ECLAC)の推定によれば、地域の2001年の経済成長率は当初2.5%と予測されたが、今では1%以下になるものと見込まれている。

長期的解決策

 ハリケーン・ミッチやこの夏の干ばつをはじめとする域内の災害によって奪われた命や失われた財産の一部は、予防策がなされ、天然資源がよりよく管理・利用されれば回避されたであろうと考えることは、悲しいことだ。

 「ハリケーン・ミッチや今回の干ばつの被害はかつてなく過酷なものであったため、被災国の多くの官僚の目を開かせるものとなっている」とリカルド・キロガは言う。「しかし、根本的解決策は中・長期的なものにある。中米の干ばつは水不足の問題ではなく、むしろ水が豊富な地域と水が不足している地域への水の配分の問題である。合理的な資源配分を実現するためには基本的な管理手段が必要とされる。IDBの水資源戦略はさまざまな水利用の管理を改善する一方で、分水界レベルでの総合的な資源管理こそが洪水による甚大な被害を回避できる手だてであることを極めて明確に認めている」

 なおかつ、地域諸国は自然資源の利用と管理に関する近代的な法律を可決し、実施していかなければならないとキロガ氏は指摘する。解決しなければならないもうひとつの重要な問題は、土地所有権の規制と農村地域の住民に真の開発の機会を創出する不動産、水および金融市場の欠如である。法規制に関してこれまでに推進されてきたことは不十分である。もっとも上手くいっている場合でも、多数の法律がまだ提案の段階にあるか、あるいは議会での審議を待っている状態にある。「喜ばしいことは新しい提案がなされており、一般市民の意識も啓発され、農村部の貧困の根元的問題に取り組もうという数多くの優れた取り組みがなされていることである」とキロガ氏は述べている。

 地域にもうひとつ欠けている分野は情報の管理である。この危機の因果関係に関する知識や情報は極めて限られている。気象や水文気象状況について、あるいは干ばつの影響を決定付ける各種プロセス間のさまざまな相互関係について、体系的なモニタリングは一切なされていない。決定を下したり、災害を正確に予測することは難しい。「ある程度、問題は資源不足のひとつである」とキロガ氏は言う。「水文気象情報は今なお十分には評価を受けておらず、関連コストを回収するメカニズムもない」水文学や気象学の活動は一般に盛んではない。地域レベルにおいてこの情報を持続可能な方法で創出し、普及していくための革新的なアプローチを見つけ出すことが必要である。

IDBの取り組み

 IDBは、社会的脆弱性の根源である貧困の決定要因に正面から取り組む農村開発のビジョンを実施するため、域内諸国と協力を押し進めている。砂漠化や土壌、水、森林を中心とする天然資源の劣化を引き起こす諸問題に対処するため、IDBはホンジュラス、ニカラグア、グアテマラおよびエルサルバドルの優先流域での天然資源管理プログラムに資金を供与している。キロガ氏が指摘しているように、「とにかく、問題は類似している。侵食された土壌は生産性が落ち、生産者の所得創出能力も低減し、水や水へのアクセスの不足が原因の社会紛争が増大し、自然災害に対する脆弱性が高まる」

 プログラムでは一般に土壌の生産性を改善し、水の効率的な利用を図り、農作物の多様化を促進する慣行を通じて、主として基本穀類を栽培する丘陵の小規模農家の所得水準と生活の質の向上に努める。同時に、これらの流域の目標は物理的脆弱性を軽減し、住民全体に利する環境サービスを提供することである。

 これらの取り組みにおいては、活動の開発と実施のプロセスにコミュニティ、草の根団体および地方政府が参画することが重要な要素となる。意思決定の分散化と参加型の土地利用計画の立案はこれらのプロジェクトの地元の主体性を示す側面であり、これまでのところ順調に成果を上げている。IDBの事業は、グアテマラのチホイ流域、ホンジュラスのエルカホン流域、エルサルバドルのレンパ川上流流域において、すでに目覚ましい成果を上げている。ニカラグアでは、社会環境・森林開発プログラム(POSAF)の第2次事業が、第1次段階の優れた成果を受けて承認されたところである。生産者らは事業が環境に良いばかりでなく、土壌、水、森林資源の合理的な利用が所得の増加と生活の質の向上をもたらすことから、自分の農地でも行動を起こし始めた。

 2000年末には、IDBならびにデンマーク技術協力信用基金の支援により、サンサルバドルにおいて国連砂漠化対策会議の実施に関する第6回地域会議が開かれ、科学・技術報告書が作成された。これらの報告書では、地域の広範に及ぶ地区が人間の介入を主因とする砂漠化と干ばつの影響によって危機的状況にあることが確認されている。この現実が認められた今、域内各国は砂漠化と干ばつに取り組むための国家行動計画の策定を公約した。「IDBはこれらの計画の将来の実施を手助けするまさに適切な立場にある」とキロガ氏は述べている。

 防止できたかもしれないさまざまな惨事は、重要な長期的決定をなさなければならないことを警告する役割を果たした。ハリケーン・ミッチの被災地における復興プロセスには流域を規制し、管理するための総合的な施策が含まれている。これらの施策が成功裡に実施されれば、これらの自然災害の多くの影響が制御できるであろう。最善のシナリオでは、人間の介入が破壊的影響を増強するのではなく、自然の猛威による打撃を緩和する手助けをするものとなる。

一夏続いた干ばつは、今なおハリケーン・ミッチからの復興途上にあった中米地域に壊滅的影響を及ぼした

 


 


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